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どろぼうとわかとの

泥棒と若殿

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,601 字 · 41 页

青空文庫

八

これが本当の喰べものだという気がした。

「おもしれえことがあるぜ、信さん」

ある夜、夕餉をとりながら伝九郎がこう云った。

「世のなかは広大だ、おれがどじだと思ったら、おれに輪をかけた野郎がいやあがる」

「――それはいることは、いるだろう」

「いるったって、それがおめえ、泥棒だぜ」

「――ばかなことを、まさか……」

「それがそうらしいんだ、百姓みてえな恰好なんだが、表の塀のまわりや、裏庭の奥のほうをときどきうろついている、おらあ気がつかねえふうで見ているが、さっき飯を炊いてるときもちらっとしやがった、――厩のぶっ壊れたのがある、あのかげのところだ」

成信は顔を俯むけた。表情の変るのをみられたくなかったのである。伝九郎はまるで気がつかず、にやにやしながら面白そうに云った。

「今夜あたりへえって来るかもしれねえ、そうしたらこんだあおれが見物する番だ、へっ、つんのめったり、踏みぬいたり、どたんばたん独りで暴れて、埃まみれの汗だくんなって、それですっからかんのなんにも無しとくらあ、――へっ、野郎びっくらして馬鹿にでもなっちまうな」

だがその夜はなにごともなかった。

八

「どうしようてんだ、あの野郎、なにをいつまでまごまごしてるんだ、まだへえる決心がつかねえのかな」