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どろぼうとわかとの

泥棒と若殿

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,601 字 · 41 页

青空文庫

「おまえの云うとおりすっからかんだ、おれも始めにそう云ったではないか」

「笑いごっちあねえや、おお痛え」

男は方々を撫でまわしながら、夜具のそばへ来て坐った。右足の股引を捲りあげて、そこを布切で縛ってある。さっき擦り剥いたところなんだろう。――男はあたりを眺めやり、溜息をついた。するとそのとき彼の腹の中でくうくうぐるぐると妙な音がした。

「腹がへってるんだが、なにか食う物はねえか」

「ないようだな」

「晩飯の残りでいいんだ、なにか食わしてくれ」

「――それがないんだ」

舌打ちをして男は立上った。それから厨のほうへいったが、なにかがたがたやりながら、ひどく腹を立てたように、「だだっ広くってなにがどこに有るかわからねえ」とか、「ここに竈があるとすれば」とか、「ちぇっ、こいつも空っぽだ」とか、いろいろ独り言を云ったのち、がっかりしてまた夜具のそばへ戻って来た。

「米櫃も空っぽみてえだが、米もねえのか」

「――おれは嘘は云わない」

「じあおめえどうしてるんだ」

「――ごらんのとおりさ」

「だって飯は食ってるんだろう」

「――今日で三日、なにも口へは入れない」

「しようがねえなあ」