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くるいだこ
狂い凧
梅崎 春生
「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页
人妻に生ませた城介の子供のことさ」
加納はしばらく黙っていた。艪を動かして、舳を風上に立てた。
「したね。あれはオルドス作戦に出発する時だった。城介君はわたしに、おれに万一のことがあったら、どこそこの家に行って、自分の最後のことを伝えて呉れ。そして子供の顔がおれに似ているかどうか確めて呉れと、地図と名前を書いてわたしに手渡したよ」
加納は伏目になったが、すぐに頭を反らした。
「しかしわたしはそれを焼いてしまった」
「いつ?」
「城介君が自殺をした時さ。彼と一緒に焼いてしまった。当人が自殺したのに、何も他人のわたしが確める必要はないと思ってね」
「その人妻の名は、何て言った?」
「もう忘れた。憶い出さない。勤めている先のお内儀さんと言うことは覚えているけれど」
「勤め先の?」
「そう。向うから誘惑されたらしい。そう彼は言っていたよ」
栄介は凝然として黙っていた。勤め先のと言えば、あの葬儀屋の女房に違いない。栄介が大学生の時金を借りに行くと、葬儀屋は無表情で女房を呼び、金を持って来させた。若い、と言ってもその頃三十前後だったが、肌のきれいな、笑うと笑くぼの出る、葬儀屋にはもったいないような美しい女であった。