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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

このザクロは福次郎が可愛がっていた樹なので、母親が反対すると、

「お宅の庭は狭い。わしの庭は広い。戦争に勝つまでこのザクロはわしが預かる。その方が福もよろこぶじゃろ」

と幸太郎ははねつけた。

「とにかく強引で横暴だったよ。玄関に下駄が散らかっていると、おれたちに怒って整理させるんだ」

そして四郎は幸太郎の声色を使った。

「何じゃ、この玄関のさまは。玄関は人間でいうと、顔にあたるんだ。福が死んでから、この家はとかくだらしがないぞ!」

よく似ていたので、栄介も安子も笑った。川津は笑わずに独酌で盃をあおっていた。

「で、戦争が済んでから、ザクロは戻って来たのか」

笑いを収めて栄介は言った。

「ああ。幸伯父の家も空襲で焼けたんだな」

「焼けなくても、戻って来ないよ」

四郎はけろりとして言った。そして徳利を耳のそばに持って行って、ことことと振った。この貧乏性の癖は、父親の福次郎にもあった。

「戦争に勝つまでという約束だったからね。実際には負けたんだ。もっともザクロを戻してもらっても、どうってことはない。戻してもらいたいのは、他にたくさんある」

幸太郎の話はそれでおしまいになり、ザクロの実の味の話になり、隣家のタケノコがうちの敷地内に生えて来ると掘って食べてもよろしいが、蜜柑だの柿の枝が越境しても実をもいではいけない、という話に