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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

出よう」

勘定を払って、二人は店を出た。宿舎に着いて、彼もいっしょにくぐり戸をくぐった。土間から板の間になり、二階に通じる大きな階段があった。裸電燈がぶら下っている。柱や梁はがっしりと太く、かなりの年数が経っているためか、総体に黒光りしていた。

「兄貴。おれ、顔が赤いか」

「いや。赤くないよ」

彼の眼には、城介はむしろ顔色が青いように見えた。

「そうかい。ちょっとここで待ってて呉れや。着換えして来るから」

そう言い捨てて、城介は階段を登って行った。彼は上り框に腰をおろし、十分ほどじっとしていた。やがて城介が服や外套をひとまとめにして、階段を降りて来た。

その時の城介の服装を、彼はどうしても憶い出せない。服を脱いだからには、何か他のものを着ている筈だが、その色も形も彼の記憶から、さっぱりと拭い去られている。

とにかく二人で急いで衣類をスーツケースに詰め込んだ。あわてていたので、土間に脱いだ靴を入れ忘れて、途中でまた詰め直した。作業がすっかり完了すると、城介は小さな声で言った。

「じゃ、行って来るよ。おれ」

彼が返事をする間も与えず、城介は顔をそむけ、階段へ歩いた。