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くるいだこ

狂い凧

梅崎 春生

「群像」講談社、1963(昭和38)年1月~5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 111,430 字 · 226 页

青空文庫

彼はますます熱心に餌のつけかえをやっていると、彼方海岸の方から、子供がかけて来る。やがてその声が届いて来た。

「栄兄さん。帰って来いよう。お母さんがそう言ってるぞう」

胸騒ぎがした。彼は急いで釣竿をたたみ、魚籠を上げて、海岸に急いだ。弟に訊ねた。

「何の用だい?」

「知らない」

魚釣りの途中で呼び返されるなんて、今までなかったことである。彼の不安は高まった。

「直ぐ兄さんを呼んで来いって言うんだ。お母さん、泣いていた」

「泣いていた?」

取り返しのつかない失敗をした時のようなショックが来た。彼は弟といっしょに家の方に走り出した。

「城介のことではないように。城介のことではないように!」

しかしやはり城介のことであった。中田という部隊長から手紙が来ていた。内容はそっけない文章で、

『内地帰還を旬日に控えて、矢木城介は急に病死した。我々も残念に思うし、肉親の方々には気の毒に思う』

という意味のものである。病名は書いてなかった。しかし、旬日に控えて、という文章が栄介の胸に突き刺さった。

「何という運の悪い奴だろう」

内地帰還とは、戻って来て召集解除になることだ。それを彼は知っていた。