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ごくちゅうせいかつ
獄中生活
堺 利彦
「楽天囚人」1911(明治44)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,443 字 · 31 页
サアしまった! こんな弱ったことはない。「見しやそれとも分かぬ間に、雲かくれにし夜半の月」「たまたま会いは会いながら、つれない嵐に吹きわけられ」失望落胆、真にたとえるにものがなかった。茶碗の破れたのすらつぎあわせて見るのが人情だから、いろいろとやっては見たが、金と金とのつぎ目の折れたのは、指先ばかりではどうにも仕様がない。それでも何とか法のないものかと、様々にいじっているうち、これを糸で結びつけてはという智慧が出た。それから着物の裾のシツケ糸をぬいて、それを二重によりあわせて、ともかくも結びつけた。鼻の上にかけてみると少々工合は変だけれど、物を見るに差支えはない。ああ真にこれで助かった!
眼鏡の待遠かったよりも、更に一層待遠かったのは書籍であった。初日、二日目、三日目、ようやく落つくと同時に退屈する。欲しいほしいはただ書籍である。書籍は教誨師先生よしよしと受込んだきりで容易に運んでくれぬ。一週間あまりすぎてからヤット二冊だけ渡された。
書籍は同時に二冊以上は見せぬという定めだそうな。役のある人ならば、日曜のほかには一日に一二時間しか読書の暇はないのだから、二冊という制限もよいか知らぬが、朝から晩まで本ばかり読む人に、タッタ二冊とは情ない。