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わたしのりれきしょ
私の履歴書
井上 貞治郎
――放浪の末、段ボールを思いつく
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,380 字 · 69 页
「初めに言葉あり」。しかし人の歴史は心に残る最初の記憶から始まる。私の場合、それは五歳のころの寺子屋時代であった。なんでも友だちのすずりを前歯でかみ割ってえらく泣かれて困ったのを薄ぼんやり覚えている。また二本の竹ん棒を友だちの肩にわたしてまん中にまたがり、得意になっていて振り落された記憶は、いまでも残っているそのときのひたいの傷あととともに、私にはなつかしいものだ。
村の祭には、有名な太鼓が繰出した。ドドンコドンコドコ。その響きがまことに珍妙なのである。村の子供が東と西に分かれ、太鼓をかついで練り歩くけんか祭だ。チョーイなんぞい! 東所がなんぞい! お前なんかに負けるかい! チョーイまかせ! 私はいつも西の大将であり、腕は弱いが気が強いので出しゃばった。だが私は子供のころからあまり運がいい方ではなかった。私の国では朝はオミー(雑炊)かオカユなのだが、オミーだと米の団子と粟の団子を入れる。ところがふしぎに私のわんにはいるのは粟の団子ばかり。『お母あ、また粟だったわ』とみせると『お前は運の悪い子やなあ、またお前にあたったか……』。私は黙ってそれを食べていた。