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しほんたいへいき

私本太平記(七)

吉川 英治

吉川英治『私本太平記(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:私本太平記、私本太平記、私本太平記。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 330,262 字 · 662 页

青空文庫

久子は化粧した。子たちにも着飾らせた。そして主屋の中央の部屋には、型のごとく、出陣の式のカチ栗や昆布の折敷に、神酒、土器なども運ばれていた。

久子の今朝は花やかに見えた。化粧も日ごろよりはやや濃目である。また裲襠は彼女がこの家に嫁いだときの物で、もちろん派手になりすぎてはいる。が、意識してそれも用いたらしい。

出陣の式の調えはすみ、正季をはじめ、内輪のおもな面々も揃ッていた。邸内は隈なく水を打ったように、このきれいな式の場を中心に、朝陽の顔と、正成の姿だけを待っていた。

「姉ぎみ」

と、正季はそっと訊ねた。

「兄上には、なおまだ、お支度中でございますか」

「ただいま、お仏間でいらっしゃいまする」

「ほ、では今朝はお朝食もこれからですな」

「いえ、お身支度も何も、とうにおすみでいらっしゃいますが、正行をお仏間の内へよんで、なにかいまお話中のようなのでございまする」

「あ……。正行と」

正季は、うなずいて。

「いや、そうか、そうでしたか!」

爺の左近は、そばでふとおもてを庭面へそらした。時ならぬ朝霜はもうあとかたもない。けれど爺は洟をすすっていた。

「お、お見えなされた」