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かがくはやくにたつか
科学は役に立つか
中谷 宇吉郎
「心」平凡社、1954(昭和29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,240 字 · 41 页
三つ四つ講演があった中に、現在の大阪大学のA教授の講演がまじっていた。A君は当時私たちと同僚であって、長岡半太郎先生の助手をしていたのであるが、このとき常圧水銀燈の考案という論文を発表した。
その頃まで、水銀燈といえば、真空のものにだいたい決まっていたのを、A君は一気圧の下での水銀燈を考案したのである。熔融水晶管をU字型に曲げただけの、極めて簡単なものであって、ただ特徴といえば、電極の周囲に当たる部分を小さい球形にふくらませ、そこで水銀の圧力が自動的に調節されるようにしただけのものである。
講演会場を出て、例によって一同で先生とどこかの喫茶店へはいって、コーヒーをのみながら、今日の講演の品定めという段取りになった。いろいろ議論が出たが、若い連中は、誰もA君の今日の講演には言及しない。皆、当たり前のことと、思っていたからである。ところが先生は最後に、「諸君はどう思いますかね。今日の講演で、僕が一番感心したのは、A君の話だった。あの研究は、役に立つ研究だよ。何といっても、一番大切なことは、役に立つことだよ」と一言いわれた。
水銀燈といえば、高圧水銀燈が常識になっている今日、A君のこの水銀燈などは、知っている人も稀であろう。