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かがくはやくにたつか

科学は役に立つか

中谷 宇吉郎

「心」平凡社、1954(昭和29)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,240 字 · 41 页

青空文庫

二 ケリイ博士の「ゼロ論」

とくに東洋というハンディキャップを入れての話であるからなおさらのことである。

ところで、ここに一つ問題が出てくる。敗戦後の科学の進歩が、それほど顕著であったとしたら、「科学による日本の再建」というスローガンに従えば、もう少し国民の生活が楽になりそうなものだという疑問である。科学が世界的の水準に達したのに、一寸した大雨でも洪水になって、一般の庶民は塗炭の苦しみに会うというのでは、結局科学と国民の幸福とは、かなり縁が遠いものになってしまう。

この点に、日本の科学に課された大きい問題がある。一つの返答は、科学というものは、そうすぐ役に立つものではないから、今少し待てば、やがては国の生産も増し、国民の生活も楽になるであろうという解釈である。しかし果してそうであるか、もう少し考えてみる必要がある。

二 ケリイ博士の「ゼロ論」

終戦直後、ケリイ博士が、今の科学研究所の前身たる理研すなわち理化学研究所を訪ねたことがある。薯の袋を背負い、汽車の窓から出入りしていた頃の話である。虚脱状態から未だ抜け切らず、空襲で半ばこわれた研究所の中で、若い研究員たちは、混迷の姿であった。