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ちくはくき

竹柏記

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1951(昭和26)年10月~1952(昭和27)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,798 字 · 91 页

青空文庫

とか「いいえ」と簡単に答えるが、殆んど話らしい話をしたことがなかった。……そのときも、気分はどうかと訊いて、彼はすぐに去るつもりだったが、夜具の上に起きていた妻が、もの問いたげな表情をするので、珍しくそこへ坐った。

髪もなでつけただけだし、化粧もしていず、寝衣の上に羽折を重ねたままのせいか、杉乃はひどくやつれて、神経が尖っているようにみえた。そして、彼が坐るのを待っていたかのように、

「どうぞ仰しゃって下さいまし、わたくし喜んでおうかがい致します」

と云った。彼には妻がなにを云うのか、まるでわからなかった。すると杉乃は、とつぜん唇を歪め、刺すような調子で、

「岡村さまのことでございます」

孝之助は妻の眼を見た。そして、自分がそのことを鉄馬から聞いたとき、妻もまた母親から聞いたのだということを了解した。

「そう、八束のことは笠井から聞いた、しかしわれわれには関係がないと思うがね」

「貴方はあの方の将来をみとおしていらっしゃいました、末を完うす方ではない、ひとを仕合せにすることのできない方だというふうに、……そうではございませんか」

孝之助は眼を伏せた。

「それがそのとおりになりました、貴方が仰しゃったとおりに、貴方のお眼の正しかったことが、こんなにも早く事実になったのです、どうしてこれを、御自分のお口からわたくしに