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ちくはくき
竹柏記
山本 周五郎
「労働文化」労働文化社、1951(昭和26)年10月~1952(昭和27)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,798 字 · 91 页
孝之助には、義母の言葉よりも、そのさりげない口ぶりが、身にしみた。
――母にもなったことだし。
母親である彼女の口から聞くと、それはいかにも実感があり、信じてもいいように思われた。……そしてまた北畠の叔母は、風邪ぎみで出られないからと、使いの者に手紙と祝いの品を持たせてよこしたが、その手紙にも同じように、これでうまくおさまるだろう、という意味のことが書いてあった。
もう一つ、そのときから半年ほどまえに、岡村八束が藩主のお声がかりで、馬廻りにあげられ、なお食禄を二百石加増される、という出来ごとがあった。これは伊豆守利秀が遠乗りに出て、その乗馬が逸走したとき、八束が通りあわせて危うく止めた。その功によるものであって、以来、彼はたいそう利秀の気にいられ、つねに側ちかく仕えるようになった。
役目を逐われ、食禄を半減されて、失意の底にあった八束には、天与の機会ともいうべきものであったし、孝之助にとっては、暗く塞がれていた精神的負担から解放され、ほっと息をつく思いであった。そして、おそらく杉乃の気持も軽くなることだろう、と考えていたのである。
こうして内にも外にも、事情の好転する条件が揃っていた。