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ちくはくき
竹柏記
山本 周五郎
「労働文化」労働文化社、1951(昭和26)年10月~1952(昭和27)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,798 字 · 91 页
過失もないが、際立って功績もない。安穏ではあるが平凡きわまる生活だ。しかも、二人の子まで生しながら、夫婦の仲は依然として冷たい。事務のようにきちんとした明け昏れのなかで、妻は固く自分の殻を閉じている。
「――どう思うだろう」
彼はまた呟いた。
めざましい出世をし、なお輝かしい将来を約束されている八束の前へ、かつて八束と愛しあい、まだ忘れかねているらしい杉乃を、このような良人がいっしょに伴れて出る。他のばあいならできないことだ、それは孝之助自身よりも、杉乃にとって屈辱である、杉乃を二重に侮辱することであった。
廊下を小太郎とふみが駆けて来た。
「お父さま、釣りにゆきましょう」
小太郎が息をはずませて云った。休みにはゆこうと、約束がしてあったのだ。
「お父たまついにいちまちょ」
ふみが負けずに力んで云い、すばやく入って来て、うしろから父親の首に絡みついた。
「ふうちゃんはだめ」小太郎がいばる、「――女は釣りなんかできません、ねえお父さま、女はだめですねえ」
「ふうたんこんなだあいまちぇんよ、ふうたんはただふうたんでちからね」
「こんなだって、女のことこんなだってさ」