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わらうあくま

笑う悪魔

野村 胡堂

「ロック」筑波書林、1948(昭和23)年12月~1949(昭和24)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,687 字 · 55 页

青空文庫

その中に、合名会社の若い社員潮田春樹と、その妹で、令嬢奈々子の音楽友達、美保子という世にも優れた麗人を加えたことと、東京ポストの社会部次長で、若い腕利きの新聞記者、千種十次郎を交えたのが、まことに異色ある取り合せでした。

実を言えば、潮田春樹は主人熊谷三郎兵衛の同郷人、妹の美保子は、令嬢奈々子が呼んで貰ったお友達で、千種十次郎も同郷の関係があり、主人三郎兵衛が特に招いたのは、あわよくばその豪勢振りを、新聞に書いて貰い度い下心があったのです。

さて、盛饗は一とわたり済んで、乾杯の三鞭が注がれ、熱いコーヒーが配られました。主人熊谷三郎兵衛は、拍手に迎えられて自席に立ち上ると、咳一咳、

「さて、皆様、今夕は御多用中のところ、斯くも御多数御集り下さいまして、まことに感謝に堪えない次第でございます。お蔭様を持ちまして、熊谷三郎兵衛、不敏不才の身を以て財界に今日あるを得ました上、御覧の通りの健康で、五十八回の誕生日を祝うことの出来ましたことは、皆様の御庇護御声援の賜物と、深く感謝する次第で御座います」

それはまことに通り一ぺんの挨拶でしたが、一代にして巨億の富を積み、三井三菱に次ぐ財閥を築き上げた熊谷三郎兵衛の態度なり口吻なりには、満ち足りた者の驕慢さと、人を人臭いとも思わぬ我意が漲って居るのです。