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こうばいつきげ

紅梅月毛

山本 周五郎

「富士」大日本雄辯會講談社 、1944(昭和19)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,869 字 · 32 页

青空文庫

「はい」お梶はちょっと臆したようすで、「でも、わたくしに飼えますでしょうか」と眩しげに主人を見あげた。「おれも面倒をみるよ」そう云って半之丞は踵を返した。

お梶はそのうしろ姿を見送りながら、ぱっと花でも咲いたように顔を輝かした。もう忘れられてしまったと考えていた主人が、この駄馬を乗馬に飼いたてるという、むずかしい仕事を自分に選んで呉れた。「ご主人はお梶を忘れてはいらっしゃらなかったのだ」そう思うと今日までの悲しい辛いおもいが一遍に消え去って、生甲斐のあるよろこびがはげしく胸へ溢れてきた。日蔭ばかりの裏庭さえ、急に明るく灯が点ったように感じられた。「おまえは仕合せ者ですよ」お梶は浮き浮きと駄馬に話しかけた、「おりっぱなご主人に拾って頂いて、いまに御登城のお供もできるんですよ、でもそうなるにはおまえ自分でもしっかりしなくてはだめね、お百姓の家にいたときとは違うのだから、……でも大丈夫、きっとあたしが凛とさせてあげます、あの牡丹にも負けないようにね」話しながら、お梶は寧ろ自分のほうがよろこびに酔っているようであった。

けんめいなお梶の努力がはじまった。