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こうばいつきげ

紅梅月毛

山本 周五郎

「富士」大日本雄辯會講談社 、1944(昭和19)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,869 字 · 32 页

青空文庫

三

「お帰りあそばしませ」近寄って来る半之丞をみると、娘は急いで裾をおろしながら立って会釈した。

襷もはずそうとしたが、半之丞は手まねで制して馬のそばへ寄り、平首のあたりをそっと叩いた、それは二寸あまりの鹿毛で、どこという特徴もないごくありふれた馬だったし、十日ほどまえから腹を悪くしているので、眼の色も濁り毛並に艶がなく、ぜんたいにひどくみすぼらしい感じだった。「干葉の湯ですそをしたらよいと伺いましたので、今ためしてみたところでございます」娘がそう云った。半之丞は黙って厩の中へはいってゆき、寝藁を掻きまわしたり、排泄物の匂いを嗅いでみたりした。娘は片手で馬の脇腹を撫でながら、吸いつけられるような眼で半之丞のうしろ姿をじっと見まもっていた。

三

娘は名をお梶といい、この家の口取りの下僕で和助という者の妹だった、くりくりとよく肥えてはいるが肉の緊ったからだつきで、いつも頬に赤みのさした、明るい、命の溢れるような顔だちである。口取りをする兄のそばに育ったためか、お梶は馬の世話をするのが好きで、近頃では兄の和助さえ「おれより上手だ」というくらい、すべてが手にいったものであった。