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こうばいつきげ
紅梅月毛
山本 周五郎
「富士」大日本雄辯會講談社 、1944(昭和19)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,869 字 · 32 页
五
五
深谷家の日常はがらりと変った。あるじの半之丞が無口なので、それまでは実にひっそりとした慎ましやかな明け昏れだったのが、阿市と下女たちが来てからにわかに活き活きとした空気が漲りだした。……毎朝はやく、殆んどまだ暗いうちに阿市が厩へあらわれる。あの朝のように、布子と男袴を着けた質素な身なりで牡丹を曳きだし、美しい手を惜しげもなく馬盥の水へ浸してすそを洗う。寝藁を干すのも、厩の中を掃除するのも決してひと手は借りなかった、飼葉を与え口を嗽ぐまで、なにもかも独りでやる、「さあ廻って」「お足を挙げて」「ちょっと前へ」愛情のこもった、はきはきとした声で呼びかけながら、いかにも馴れた手つきで淀みなく始末してゆく、見ているだけでも気持のよい挙措だった。
半之丞が朝食まえにいちど午後にいちど、牡丹をせめに出て戻ると、すぐにまた阿市が受取って揉み藁で汗を拭きすそを洗う、そして夜になり、厩に入れて寝せるまで、まったく影のかたちに添うような世話ぶりだった。……半之丞はかくべつなにも云わなかったが、家士たちも和助も、お梶さえもそれには感嘆の眼を瞠った。「とても大身のご息女とはみえぬ」