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こうばいつきげ

紅梅月毛

山本 周五郎

「富士」大日本雄辯會講談社 、1944(昭和19)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,869 字 · 32 页

青空文庫

二

松野権九郎が頭を振りながら云った、「おれはよく知っているが、あれはごくあたりまえな平凡な馬だった、深谷は乗るのも抜群だが飼うのはさらに上手で、ごく平凡な馬だったのをあれまでに育てあげたのだ、しかしまず駿足というところだろう、決して名馬などではなかったよ」「それは深谷も自分で云っているな、われわれには駿足くらいが頃あいで、それ以上の馬は飾り道具だと、……だが紅梅月毛は名馬といってもそれほど不当ではなかったよ」

こうして一座の話題の中心になっているのに、当の深谷半之丞は隅のほうに坐ったまま黙っていた。かれの無口は名だかいもので、こういう座談などには決して加ったことがないから、まわりの者もしぜんと馴れてしまい、今ではかれがいてもいなくても、平気でかれの評判をするようになっていたのである。「ご一同お縁側へ」間もなく近習番の侍がそう伝えに来たので、かれらは衣紋をかいつくろいながら遠侍から出ていった。

二

本多忠勝はそのとき五十八歳だった。生涯に五十七たびも戦場に臨み、なんども生死の境をくぐって来たが、身にはかすり疵ひとつ受けなかったという、近頃は自分でも「寸が詰った」