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わかきひのせっつのかみ
若き日の摂津守
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1958(昭和33)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,437 字 · 47 页
光辰は振向いて永井民部を見、その山やまのうちひときわ高く、頂上に雪のある峰を指さした。
「あの雪のある山」と光辰は云った、「おれはあの山を、まえに見たことがあるか」
「初のお国入りですから、ごらんになるのは今日が初めてでございます」
「そうか」光辰は安心したように微笑し、口のまわりを拭いてから、威厳をつくろって訊いた、「あれはなんという山だ」
「越見岳と申します」と民部が答えた、「昔はあの頂上に見張り所があって、不法に国越えをする者や、密猟者などを取締ったのだと、伝えられております」
「民部はよく知っているな」
「私はお国許で生れ、十歳までこちらで育ったのです、――お口のまわりをどうぞ」
光辰は袖で口のまわりを拭いた。白綸子の羽折の袖口のところは、もうひどく濡れていた。
猟が終ると、獲物を集めて、光辰に披露した。その日の宰領をしたのは物頭の和泉五郎兵衛という者で、獲物は鴨六百羽、鴫その他が八十羽ということであった。それから、獲物を料理った膳が配られて、小酒宴が催された。まず賜盃から始まって、次に光辰が膳部に向うと、望月吉太夫が上段際まで席を進め、大沼の鴨について語った。