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わかとのじょなんき
若殿女難記
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館 、1948(昭和23)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,611 字 · 45 页
ねえとくるから安心だ」
「若さまお言葉が過ぎまする」宙野が堪りかねて睨んだ。「御座興も程々にあそばさぬと御老職に聞えまするぞ」
「そしてまた縛り首か」若さまはふんと鼻で笑った。「こうやってこの席に坐っちまえば大磐石だ、そんなこけ脅しには驚かねえ、なあ双公、もしおいらが縛り首になるとしたら、おめえも同じ繩にかかってくれらあなあ」
「仰せまでもございませんわ、若さまに万一そんな御不幸がございましたら、わたくし一刻も生きてはおりませんよ」
「へっ、これが本当の殺し文句か、さあ嬉しくなっちゃったぞ、どんどん酒を持って来い、肴もこんな白けたもんじゃあなく、鰯のてんぷらに中とろのぶつ切りといこう、烏賊の黒作りに鰹の塩辛、もつ鍋にどじょう汁でもそ云ってくんねえ、こうなったら無礼講だ、構うこたあねえからじゃんじゃんやれ、ここらで誰か一つとーんとぶっつけて貰いてえな」
またしても読者諸君には申訳のない、低級至極な場面と相成ったが侍女腰元たちは決してそう思わないようである。この若殿のいかがわしい言動に対して、誰ひとり眉をひそめたり不快な顔をする者がない、いや、むしろますます魅了され眩惑され執着をそそられたようである。