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わかとのじょなんき
若殿女難記
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館 、1948(昭和23)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,611 字 · 45 页
「――門、門を頼む」
こう叫びながら彼は奥へ駈け入った。そこは盃盤をそのまま、燭台ばかり煌々と明るいが人間は誰もいない。「誘拐」という文字が頭へきたので、我知らずとび出そうとすると、御屏風の蔭から赤い紐のような物がみえる。そっと近寄っていって覗くと一人の腰元がこっちへ背中を向けて俯伏しになっていた、赤いのはほどけた扱帯の端である。
「――これ」紋太夫がそう呼ぶと、腰元はきゃっといって振返った。
「そんな所でなにをしておる」紋太夫は怒鳴りつけた。「若殿はどうなされた、若殿は」
「は、はい、わたくしは、存じませぬ」
「知らぬということがあるか、おまえはどうしてこんな所に隠れていた、なにごとが起ったのだ、お付の者たちはどうした」
「はいそれは、あの」紋太夫の血相が変っているので腰元はすっかり怯えてしまった。「――あの、初め、わ、若さまが、おかくれになりまして」
「なにおかくれ、若殿は御死去か」
「いいえ唯のおかくれでございます」
「はっきり申せ、なにがどうしたというのだ」
「あのう、あのう、隠れんぼう」腰元はぽっと頬を染めた、「――隠れんぼうでございます」
「と申すと子供のするあれか」