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おちばのとなり
落葉の隣り
山本 周五郎
「小説新潮」1959(昭和34)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,877 字 · 57 页
六
「注文の仕事が閊えてるんだ」と繁次は眼をそらしながら答える、「名ざしの注文なんだから、休みだからって遊んでるわけにはいかないんだよ」
そんなふうに上り框で云って、そのまま出てしまうことが多かった。おひさは父の看病をしながら、仕立て物の賃仕事をしているそうで、ときには母のところへ、わからないところを訊きに来ていて、繁次と顔の合うこともあったが、おひさのほうが先に眼をそらすようで、話をする機会は殆んどなかった。
六
二十四の年の三月に、繁次はようやく年期があけて、黒船町裏の家へ帰った。店と縁が切れたわけではなく、かよいでもう二三年仕事をすれば、親方が店を分けてくれる約束であった。
こうなれば避けるわけにはいかない。朝でかけるときなど、しばしばおひさと出会った。おひさも十九で、すっかり女らしくなってい、朝の挨拶をするときなど、ちょっとした微笑や、おじぎのしかたなどに、ほのかな媚が感じられた。そんなことが眼につくと、繁次の胸はまた痛みにおそわれ、一日じゅうその痛みの続くこともあった。
参吉ともよく会うが、彼は泊りこみで修理物にでかけることが多く、またお互いの仕事が違うためもあろうが、以前ほど親しい往き来はしなかった。