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ふとん

蒲団

田山 花袋

「新小説」春陽堂書店、1909(明治40)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,870 字 · 90 页

青空文庫

酒でなければこの鬱を遣るに堪えぬといわぬばかりに。三本目に、妻は心配して、

「この頃はどうか為ましたね」

「何故?」

「酔ってばかりいるじゃありませんか」

「酔うということがどうかしたのか」

「そうでしょう、何か気に懸ることがあるからでしょう。芳子さんのことなどはどうでも好いじゃありませんか」

「馬鹿!」

と時雄は一喝した。

細君はそれにも懲りずに、

「だって、余り飲んでは毒ですよ、もう好い加減になさい、また手水場にでも入って寝ると、貴郎は大きいから、私と、お鶴(下女)の手ぐらいではどうにもなりやしませんからさ」

「まア、好いからもう一本」

で、もう一本を半分位飲んだ。もう酔は余程廻ったらしい。顔の色は赤銅色に染って眼が少しく据っていた。急に立上って、

「おい、帯を出せ!」

「何処へいらっしゃる」

「三番町まで行って来る」

「姉の処?」

「うむ」

「およしなさいよ、危ないから」

「何アに大丈夫だ、人の娘を預って監督せずに投遣にしてはおかれん。男がこの東京に来て一緒に歩いたり何かしているのを見ぬ振をしてはおかれん。田川(姉の家の姓)に預けておいても不安心だから、今日、行って、早かったら、芳子を家に連れて来る。