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ふとん
蒲団
田山 花袋
「新小説」春陽堂書店、1909(明治40)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,870 字 · 90 页
九
時雄は激さざるを得なかった。事実は恐しい力でかれの胸を刺した。
時雄は立って厠に行った。胸は苛々して、頭脳は眩惑するように感じた。欺かれたという念が烈しく心頭を衝いて起った。厠を出ると、其処に――障子の外に、芳子はおどおどした様子で立っている。
「先生――本当に、私は焼いて了ったのですから」
「うそをお言いなさい」と、時雄は叱るように言って、障子を烈しく閉めて室内に入った。
九
父親は夕飯の馳走になって旅宿に帰った。時雄のその夜の煩悶は非常であった。欺かれたと思うと、業が煮えて為方がない。否、芳子の霊と肉――その全部を一書生に奪われながら、とにかくその恋に就いて真面目に尽したかと思うと腹が立つ。その位なら、――あの男に身を任せていた位なら、何もその処女の節操を尊ぶには当らなかった。自分も大胆に手を出して、性慾の満足を買えば好かった。こう思うと、今まで上天の境に置いた美しい芳子は、売女か何ぞのように思われて、その体は愚か、美しい態度も表情も卑しむ気になった。で、その夜は悶え悶えて殆ど眠られなかった。様々の感情が黒雲のように胸を通った。その胸に手を当てて時雄は考えた。