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ろんごものがたり
論語物語
下村 湖人
「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页
愚痴なようだが、やはり野には下りたくないものだ。道を楽むの何のと云っても、官職を離れたが最後、世間の評価はすぐ変って来る。それが世の中というものだ。だから先生にも餘程自重して貰わないと、さきざきどんな惨めなことになるか知れたものではない。とにかく、今日自分があの老爺を取次いだのは失敗だった。)
彼がそんなことを考えているうちに、用達しに出ていた門人たちが四五人、どやどやと帰って来た。彼は待ちかねていたように、すぐ事実を彼等に話した。そして、
「ありのままを話したら、先生もまさか会おうとは仰しゃるまい、と思ったのが、僕の見込ちがいだった。」
と、いかにも残念そうにつけ加えた。
「1そりゃ先生は、自分が人に知られることよりは、人を知ることに、いつも心を用いていられるからね。」
と、一人がしたり顔に云った。
「なあに、先生のことだ、まさかそんな奴に恥をかかされるようなこともあるまい。」
と、他の一人が事もなげに云った。
「それはそうさ。しかし、そんな人間にお会いになったということ自体が、先生の値打を下げることになりはしないかね。」
と、またある者が云った。
「僕が心配するのもその点だ。