轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
ろんごものがたり
論語物語
下村 湖人
「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页
今日彼は、やっとその願いをはたした。彼の眼は、耳は、そして心は、無限の過去と、永遠の将来との間に、今や寂然として澄んでいるのである。
「これが最後じゃが、実はこれがはじめてでもあるのじゃ。」
孔子は、独語のようにそういって、もう一度、遠くに眼をすえた。
門人たちは顔を見あわせた。孔子は、これまでにも、いくたびとなく泰山にのぼっている。七十歳をこしたこの一二年こそ、全く書斎の人になりきっているが、以前は、旅の行きかえりにも、いくたびかこの山にのぼったものである。「はじめてだ」という意味が、門人たちには少しもわからない。
孔子は、しかし、門人たちの気持には何の関心も持たないかのように、二三歩、歩を移した。そして、あたりの樹や石を一つ一つ、念入りに眺め出した。門人たちは默ってそのうしろ姿を見ていた。
「泰山のこころは深い。わしは今日はじめて、泰山のふところに入ることが出来たのじゃ。」
電気のようなものが、ぴりりと門人たちの胸につたわった。彼等は再び顔を見あわせた。しかし、誰も一語も発しない。
(不死のたましい。)
そう、彼等の眼は囁きかわしたかのようであった。