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ろんごものがたり

論語物語

下村 湖人

「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页

青空文庫

自分を笞ち、笞ち、今日までどうなり正しい道を踏みはずさないでは来たものの、その頃は事毎に迷うことばかりで、苦しんだものじゃ。何か一寸した事にぶっつかって、右か左かの決心をつけるまでに、三日も四日もかかったことさえある。電光石火という工合にはなかなか行かなかったものじゃ。それに、一度決心をつけて、その方にふみ出してからも、一寸うしろをふり返って見たくなったりして、考えると可笑しいほど未練がましかったものじゃ。それもやはり、学問が実践によって練れていなかったからであった。しかし、四十をこすと、どうなりそんな迷いもなくなって、何事をなすにも立ちどころに心が決まるようになったのじゃ。」

「先生が周都洛陽にお出になったのは、お幾つ位の時だったでしょう。」

「三十五歳の時であったと覚えている。あの時が、わしの一生のうちで最も感銘の深かった時とも云えるのじゃ。明堂で、堯舜や桀紂の像を見た時には、何かこう、ふるい立つような気持を胸の奥に感じたものじゃ。」

「老子にお会いになったのも、その時でしたね。」

「そうじゃ、幾たびもいうようじゃが、老子には捉えがたい竜のような神秘があった。