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ろんごものがたり
論語物語
下村 湖人
「現代」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 132,688 字 · 266 页
あの人の実人生に対する態度には、どうしても同意出来ないところがあったが、天地と共に生きる心境の自然さと、その深さとには、深く心を打たれるものがあった。わしに対して、良賈は深く蔵して空しきが如く、君子は盛徳があって、容貌愚なるが如しと誡め、また、驕気と、多欲と、態色と、淫志を去れと教えてくれたが、まだ若かったわしにとっては、たしかに適切な言葉であったと、今でも感謝している。わしが、わしの学問を頭から心に、心から行いに引き直して、そこに自然の境地を開拓しようと、真剣に努力し始めたのも、一つには老子の教えがあったからじゃ。」
門人たちは、これまで学問の敵だとばかり考えていた老子を、孔子自身がしきりに讃めるので、いくらか呆気にとられた形であった。
「しかし――」
と、孔子は急に悲しそうな顔をしていった。
「あの頃はいまわしい事も随分多かった。魯の国がひどく乱脈になり、昭公が季氏に逐われて斉に遁げ出されたのもあの頃であった。わしも難をさけて斉に行ったが、途中、ある山の麓の墓場で、一人の婦人がさめざめと泣いているのに出遭ったのじゃ。わけをたずねると、舅と所夫を虎に啖い殺された上、今度はまた子供まで啖い殺されたのだという。