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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

喧嘩に勝って

「喧嘩ってほどのことでもないんですけれど、此奴が社長の屋敷内に住んでいるんですから、今日のことを聞きつけると、屹度何か言い出します」

「私、今朝もっと早く来れば宜かったわね」

「然うですよ。あなたが晩くて、イラ/\していたものですから」

「それじゃ私の責任?」

「多少あります」

「あらまあ」

と道子さんも飛んだところへ来合せたものだった。

「旦那さま、お客さまでございます」

とそこへ婆やが名刺を取次いだ。

「鳧三平。来たな。畜生! 二階へ通せ」

「あなた」

と道子さんは袖を控えた。

「大丈夫だ」

と堀尾君は言った。これは円満にやるという意味でなく、負けないという意味らしかった。

喧嘩に勝って

鳧三平さんは堀尾君の家の二階で少時待たされた。最初はキチンと構えていたが、洋服で窮屈だから、座を崩した。次いで、

「何をしているんだろう?」

と呟いた。人事課長ぐらいになると、下役に待たせられることは絶対にない。

「奴、恐れ入って、出すくみをしているんだな」

と思いながら、軽蔑の眼をもって周囲の安造作を見廻している中に、床の間の掛物に注意を惹かされた。蝦蟇仙人の大幅だった。

「柄にないものを掛けているな」