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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

学校の帰りということは叔父叔母への手前、具合が悪いようですから、今晩お越し下さいませとあった。

「よし」

と安心して、一緒に来た葉書を見たら、○高の安藤教授からだった。恩師も愛人と同列だと二の次になる。

拝啓、其の後御無沙汰申上候。今回公用にて出張、九段上松葉館に宿泊中に候。久しぶりにてお目にかゝり度、二十五日晩を都合致置候間、同日夕刻会社御退出後直ちに御枉駕被下度待申上候

十月二十二日安藤生

この葉書二日間懐中、後れたらそれまでのこと。御諒察を請う。

「相変らずだな、先生は」

と堀尾君は微笑んだ。

「しかし何うしよう?」

と考えたが、又とない機会だ。普通に言う恩師でない。中学校で五年、高等学校で三年お世話になった恩師である。

「安藤さんの方を早く切り上げて廻れば宜い。誂え向きに何方も九段上だ」

と直ぐに定めた。しかしもう一つ、

「しかし……」

という考慮があった。安藤先生は、

「恒産あるものは恒心あり。豈戒めざる可けんや」

と教えてくれた先生である。君の性格で十万あったら迚も勤まるものじゃないと言っている。折が折だった。

失業の夕

堀尾君は夕刻、九段上の松葉館へ出頭した。