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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

「忘れ物をしたものですから」

「道子さんが後から気がついて、御心配申上げて居りました。さあ、何うぞ」

「いや、もう十一時過ぎていますから」

「電車は十二時までございますわ。屹度お見えになると申して、道子さんも夕方からお待ちしていたのでございますから」

「それでは一寸」

と堀尾君は二階へ上った。

「お芝居。オホヽヽヽ」

と道子さんが笑った。

「上手でしょう?」

「さあ。何うぞ」

「急ぎますから」

と堀尾君は座布団に坐ると共に時計を出して見た。

「宜いのよ、御ゆっくりで」

「しかし本当にもう晩いんですから」

「何うでございましたの?」

「好い塩梅でした」

「まあ、嬉しい」

「新聞社ですよ」

「あら! 会社じゃございませんの?」

「会社銀行は駄目でした。重役連中が四人とも、そんな喧嘩っ早い奴は御免蒙ると言ったそうです」

「この間のことをお話しになったんでございますね?」

「えゝ。安藤先生は中学校高等学校を通じて僕を手がけていますから、聊か衣鉢を伝えた積りだと言って推薦したそうですが、それが却って悪かったようです」

「贔負の引き倒しね」

「矢っ張り僕の先生ですよ。直ぐに憤ってしまって、貴様達、金のことばかり考えている奴等に教育が分るかって、食ってかゝったんです」