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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

「矢っ張り有るからさ」

「いや、有るんだか無いんだか分らないんだ。昔から見ると大分へっていると聞いているから、恐ろしくて訊いて見たこともない」

「何とか言って、要するに番人志望じゃないか?」

「そんなことはないけれども」

と奥田君はいつも親父の意向に帰着する。それでいて、その意向を早く確めようとは決してしない。道子さんがお茶を入れて上って来た。堀尾君の顔を見て目で笑ったのは、早かったでしょう、女中を寄越さなかったでしょうという意味だった。奥田君は与り知らない。泰然として煙草を銜えている。堀尾君は、

「然う/\。明日の晩、伊丹君の送別会がある。君に知らせてくれと言うんで、やって来た」

と表向きの用件を切り出した。

「何処だい?」

「満鉄さ」

「それは聞いているが、会場さ」

「しまった」

「何うしたい?」

「会場を聞かなかった」

「暢気だね」

「言わないんだもの」

「例によって間瀬かい? 幹事は」

「うむ」

「何方も何方だ」

「矢っ張りこの間のところだろう」

「オホヽ」

と道子さんは一々聞き洩らさない証拠に、お茶を薦めながら笑った。

「君はこの頃少し何うかしているぜ」

と奥田君も多少認めている。