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まけないおとこ
負けない男
佐々木 邦
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页
ヨタを書いた後だから、幾度も推敲した。
九時頃、社から家へ帰る途中、乗り換えた電車の中で、褞袍に三尺帯の若いものが三名、多少酒気を帯びているのか、傍若無人の高調子で談笑していた。堀尾君はその直ぐ側に席を占めた。立っている人もあったから、そこ丈け敬遠の意味で明いていたのかも知れない。
「彼奴のどてっ腹を抉った奴は、大きな声じゃ言えないけれど、おれはよく知っている」
「おれも知っている」
「菊、手前だろう?」
「馬鹿を言うな。おれならあんなヘマはやらねえ」
「それなら誰だ?」
「春公よ」
「春の野郎だろうってことは噂に聞かねえでもねえが、手前達が後押しだろう?」
「さあ。その辺は警視庁へ行って訊いて見ねえ」
というような物凄い会話だったから、皆恐れていた。
次の停留場から商家の娘さんらしいのが乗った。それが丁度自分の前に立ったので、堀尾君は席を譲ってやった。
「ヘッヘ。別嬪だと思やがって」
と褞袍の一人が言った。
「ハッハヽヽヽ」
と他の二人が笑った。堀尾君は黙って釣革に下っていた。
「この電車は馬鹿に揺れる。あゝ危え」
と娘の隣りの奴が娘に寄りかゝる。
「ひどく揺れるよ。