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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

と野口さんは何処までも正晴君贔負だ。正晴君が○○紡績へ入った時は失望したが、新聞社へ移ってからは矢張り将来大臣になれるものと信じている。

日比谷の大神宮で式を挙げて築地の精養軒で披露をする。これがその頃本格のようになっていたから、堀尾君はその通りを実行した。式場で顔を合せた時、花嫁は頻りに花婿を睨んだ。

「一寸喧嘩をしたのさ」

と堀尾君が目で囁いた。

「仕方のない人ね」

と道子さんも目で窘めた。これくらい意思が疏通しているのに、今更鹿爪らしく御両人の名前を読み上げる神官はお人好しの限りだった。写真屋が出張していたので、

「写真は何うする?」

と仲人の清水君が心配した。

「やめろ/\。本当に堀尾は仕方のない奴だ」

と奥田君が却けた。道子さんの側からは奥田君夫婦と両親が遙々上京していた。

披露式は新聞社の連中と双方の親戚友人で可なりの大人数だった。堀尾君は道子さんと二人正座に坐って、

「左の目を打たれた方が宜かった」

と思った。道子さん側の目が腫れているのだった。

「変な顔ね」

と道子さんが目で囁く。

「堪忍して下さい」

と堀尾君が囁き返す。

デザート・コースに入って、仲人の清水君が立ち上った。