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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

贅沢な就職難

「何あに、岡村先生が賛成しても、郷里へ帰れば兄貴が止めてくれるに定っている」

「止めてくれる人を探して歩くんだね」

「死にたくない奴の自殺みたいなものさ」

「まあ! オホヽヽヽ」

と道子さんが先ず笑い出した。

直情径行の堀尾君も愛人の前には策を弄する。十万円貰うと真向から発表しては宣伝染みて品が好くないから、斯ういう手順を履んだのらしい。ナカ/\機嫌取りが巧い。

「冗談は兎に角、僕は大に感じたよ」

「何を?」

「安藤先生の忠告さ」

「何ういう?」

「多少恒産があると、僕のような我儘ものは何処へ行っても勤まらないというんだ。或は然うかと思っていたところへ、君からウンと痛めつけられた。これは有るなしに拘らず勤まらないというんだから、少々極言のようだが参考にはなる」

「それで何うする?」

「貰うよ」

「就職の方は?」

「郷里へ帰って少時遊んでから本気で探す。あり次第本気で勤める」

「結構だ」

「財産は貰っても当にしなければ、ないのも同じことだ。安藤先生の精神も生きるし、君達の忠告にも副うことになる」

と堀尾君は拠ろなく十万円貰う形にした。

贅沢な就職難

「民友新聞」の個人消息欄に、

△法学士堀尾正晴氏 昨日馬橋村へ帰省。