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まけないおとこ

負けない男

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 98,799 字 · 202 页

青空文庫

「図々しい奴だね」

「私も腹が立ちましたから、そんなことをしちゃ困ると言ってやりましたが、この犬が吠えるから悪いと吐します。犬は吠えるのが商売だと言い返してやったら、『縛って置け。咬み殺されても知らないぞ』と権幕をして帰って行きました」

「怪しからん。今度来たらおれが叱ってやる」

と堀尾君は言い聞かせる積りだった。それから日曜の朝、早速その機会があった。アレキサンダーが喧しく吠え始めたから、玄関へ出て見ると、何処かの書生が猛犬を曳いて門の中へ入って来ている。アレキサンダーは身体を捻って一生懸命に吠えている。

「何をする?」

「…………」

「入って来ちゃいけない!」

「その犬が吠えるからですよ」

と書生が言った。ブルは吠えないが、書生を引き摺るようにして闘志を示している。

「吠えるからって、人の家の門内へ入って来る奴があるか?」

「…………」

「出て行け!」

と堀尾君はアレキサンダーを押えながら叱りつけた。書生は帰って行ったが、矢張り毎日犬を曳いて通る。アレキサンダーがそれを待っていて吠えるから果しがない。婆やは毎日のように訴える。ところで問題の日曜の朝のことだ。堀尾君は急いで玄関へ出た。