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のわき
野分
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,401 字 · 42 页
しかしそれはかくべつ際だったものではなく、二十四歳の夢と若さと現実性をもった、きわめてあたりまえな愛であった。だが後に彼は知ったのである、烈火は消え易いが、くすぶっている埋み火は冷えにくいということを。
「今日が三日だな」とそのとき帰りがけに、又三郎はなにやら決心したようすで、藤七にそう云った、「……明後日の三時ごろ、御苦労だが蔦萬へ来て貰えまいか、ちょっと二人きりで話したいことがあるから、三時ごろがいいんだが」
へえと藤七は訝しげに見たが、合点するものがあったのだろう、かしこまりましたお伺い致しましょう、と答えた。
又三郎は路次を出ると、心に張の出た足どりで竪川の岸を歩いていった。まだ昏れて間もないのに、家々はたいがい戸をおろしていた、印を書いた油障子に灯のさしているのは、居酒屋か一膳めし屋のたぐいで、酔って唄うだみ声が、ひっそりとした河岸通りにもの侘しい反響を伝えていた。それは川の上の繋ぎ船で焚く火明りの、ちらちらと頼り無げな焔の色と共に、初冬の宵のしみとおるような寒さを際だたせるものだったが、そのときの又三郎にはなにやら懐かしく、できたらその仲間へはいってゆきたいような、誘惑をさえ感じた。