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つげびと
野菊の墓
伊藤 左千夫
伊藤左千夫『野菊の墓』。同一底本的分册已合并为一书。收入:告げ人、箸、老獣医。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,955 字 · 71 页
いまに甘酒もできるぞ。うむ、柿のほうがえいか、よしよし」
松女はおじいの膝にのって柿を食ってる。源四郎もようやく掃除をやめたらしい。くまでやほうきやくわなどを長屋のすみへかたづけている。そとは雨の降るのも見えぬほど暮れてきた。そのほの暗い長屋門をくぐって、見知らぬ男がふたりいそいそとはいってくる。羽織はもめんらしいが縞地か無地かもわからぬ。ももひきぞうりばきのいでたち、ふたりは二十五、六ぐらい、によったふうである。軒に近づくとふたりはひとしくかぶりものをとる。
「ごめんください」
「ごめんください」
「ハイ」
老人は松女を膝からおろしてちょっとむきなおる。はいったふたりはおなじように老人に会釈した。老人はたって敷き物をふたりにすすめる。ふたりのものは腰もかけないで、おまえが口上を申してくれ、いやおまえがと、小声に押し合ってる。老人はもとより気軽な人だから、
「おまえさんがたはどちらからでございますか」
「ハイ」
「ハイ」
ようやくのこと、すこし年上らしいほうの男が、顔のようすをつくろうて、あらたまった口調に口上をのべる。
「わたくしどもは、その大富村からでましてございますが、ご親類の善右衛門さんのおばさんが、けさそのなくなりましたものでございますから、告げ人にでましたしだいでございます。