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こんじきのし
金色の死
谷崎 潤一郎
「東京朝日新聞」1914(大正3)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,997 字 · 46 页
僕は憂鬱が大嫌いだ。いつも晴れ晴れとした心持ちで居たい。」―――そのせいか彼は常に血色のいゝ顔を輝かして、いかにも爽快な、歓ばしそうな眼つきをして居ました。
そんな事をして居るうちに、岡村君は前後二度ばかり学年試験に落第しました。私が大学二年生になっても、彼はまだ高等学校にうろ/\しなければなりませんでした。彼の落第は試験に失敗した結果ではなく、全く平生から欠席ばかりして居る為めでした。時々彼は半月も一と月も姿を隠して、学校は愚か自分の邸にさえ居ない事があるくらいで、同級の生徒なども殆んど彼の存在を認めて居ませんでした。そうして、私が大学の三年になった年の秋から、彼はパッタリ顔を見せなくなりました。何んでも「退校したのだろう。」とか、「退校されたのだろう。」とか云う噂を聞きました。
断って置きますが、文壇に於ける私の評判は、早くも其の頃から段々下火になって、書く度毎に冷酷な批評家から有りと有らゆる罵詈讒謗を加えられて居たのです。おまけに私の学費だの一家の生活費だのに遣い減らした父の遺産は、既に空乏を訴えて居たので、私は嫌でも応でも原稿料を稼がねばならないハメに陥って居たのです。