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こんじきのし

金色の死

谷崎 潤一郎

「東京朝日新聞」1914(大正3)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,997 字 · 46 页

青空文庫

三

三

私は初め彼の体操狂いを内心大いに軽蔑して居ました。芸術より外に楽しみのある可き筈はないと、一途に思い込んで居た私にとって、軽業の稽古にも等しい彼の遊戯が無意味に見えたのは当然なのです。彼があまり夢中になって傍目もふらず練習して居る様子を見ると、

「君はもう芸術家になれそうもないぜ。」

こう云って忠告してやりたいような反感も起りました。

或る秋の日の夕ぐれの事、学校が済んでから間もなく、私は例の通り文学談でも戦わす可く彼の邸を訪問すると、今しも彼は練習の最中と見えて其のまま私を体操場の方へ案内させました。

「やあ失敬、君もちっと運動したらどうだい。」

彼は朗らかな青空を背にして、鉄棒に腰を掛けながらさも愉快そうに声高く叫びました。いつも学校の制服姿を見馴れて居る私は、(岡村君は家に居る時も大抵制服を着て居たようです。)派手なお納戸色の運動服をぴったりと身に着けて、殆ど半裸体になって居る彼の姿を、不思議に美しく妖艶に感じました。

「いやなら其処で見て居給え。汗の出るまでやらないと僕は気持ちが悪いんだから。」

こう云って岡村君はそれから更に二十分ばかり、息も継がずにいろ/\の芸当を演じて見せるのです。