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てつのしょじょ
鉄の処女
大倉 燁子
「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,706 字 · 42 页
殆ど意識を失いかけている妻を無理に引き立てて、玄関の扉の処まで歩かせ、ベルを押して私は門の外へ逃げ出し、そこから見ていました。すると小間使が出て来て、妻がすうっと扉の中に吸い込まれるように入ったのを見届けてから、安心して、そのままクラブへ参り夜を更しました。
なお万一の場合を考慮し、疑いを避けるために妻と一緒にいた時間を、五番町の妾宅に居ったように、よく妾に云いふくめておきました。
しかし妻が自殺したとなると、ちょっとまた困ることがあるのです。いずれ家庭内に何かあったと怪しまれるでしょう? 結局兄の問題などが表面に出て来て、暗闇みの耻を明るみへ晒らさなければなりません。私はそれを何より怖れたんです。そこで策略をめぐらし、他殺にしてしまって、犯人として兄を掴まえてもらおう。そしてどこまでも狂人としてしまえばいいと思っていました。
何しろ兄の行衛が分らないということは、私にとって非常な不安なので、S夫人に探し出して頂いて、直ぐ警察の手で捕縛させ、精神病院の院長に鑑定させれば、何もかも私の思い通りになると考えたのです」
S夫人は最後まで静かに、微笑を浮べながら伯爵の話を聞いていた。