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てつのしょじょ

鉄の処女

大倉 燁子

「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,706 字 · 42 页

青空文庫

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私は一目でいいから彼女に会いたい、会ってこの顛末を物語り、智恵子の口から慰めてもらいたいと思いました。しかし彼女に会う機会はなかなかまいりませんでした。

6

やっと私の願いが叶う日が来ました。上野の寛永寺にお茶の会がありまして、智恵子がそこへ行くということを、新聞で知ったのです。早速上野へ参り、寛永寺の附近をうろついていて、永い間あこがれていた彼女の姿を見ました。この機会を外してはもう永久に会うことは出来まいと思い、見えがくれに従いてゆきました。智恵子は運転手に何か云っていましたが、軈てたった一人で寛永寺の門を出て、静かに帝展へ入りました。

三十年も過ぎると流行というものは再び戻って来るものでしょう。私の目に残っている智恵子はよく藤色矢絣のお召の着物を着ていました。それがまたよく似合いました。前髪を眉の上まで切り下げて、細面を幾分か丸く見せて居りました。

処がどうでしょう。今日の智恵子はやはり藤色矢餅の着物を着ているではありませんか。そして前髪も縮らせて下げています。三十年前の懐しい姿そのままの智恵子は、いま十歩を隔てぬ処にいるのです。私はなつかしさに思わず震えました。