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てつのしょじょ

鉄の処女

大倉 燁子

「踊る影絵」柳香書院、1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,706 字 · 42 页

青空文庫

9

恐しい人ですわね」

夫人は私の説を笑いながら聞いていたが、

「まだ犯人を伯爵だと断定するわけにはゆきませんよ。最初から私には九分通り判断はついていたんですが、あとの一分が分らないために苦しんでいるんです。まあ自然に解決がつくまで待っていらっしゃい」

そこへ給仕が夕刊を持って来た。

夫人は直ぐそれを広げて見ていたが、無言のままくるりと差向けて、ある箇所を指で押え注意を与えた。

「まあ!」私は思わず驚きの眼を見張った。

そこには『狒々の怪死』という題で、僅か数行の文字が書かれてあった。浅草で興行中のサーカスの愛嬌者、狒々男が評判の『鉄の処女』を演じている最中、陥穽から脱け損い、心臓を剣で突き刺れて即死したというのだ。過失だともいうし、またある一説には人気を嫉む者か、あるいは女関係の恨みから、肝心の脱け穴をこの日に限って作っておかなかったためだとも云う。取り調べ中だとあるが、夫人と私の頭には偶然か故意か、何かしら、そこに分ることがあるように思えた。

9

何事か深い決心をしたS夫人はその晩遅く、助手の私を伴って、伯爵を訪問した。

伯爵は直ぐに自分の居間に通して、