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はちのき
鉢の木
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1944(昭和19)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,534 字 · 28 页
のが、いまはふしぎに身ぢかな、いってみれば十年の知己のような感じさえする、――付け文には限らない、もっと思い切った手段もとる、萩尾どのを欲しいという気持は潔白だ、眉もうごかさずにそう云ったときの又左衛門の顔は、いま思い返しても胸のすく凛としたものだった。
酒波寺で撞く鐘が八つを知らせた、四郎兵衛はしずかに夜具をはねて起き、音をさせぬように厨口から裏へ出ていった。とうとう眠れなかったが、心はすがすがと軽かった、かれは津野神社での勝負に自分の死を賭けている、又左衛門がまさしくたのむに足る男だったらかれはよろこんで斬られるだろう、もしまた口さきだけの似非者だったら、そのときは相手を斬ったうえ割腹するつもりだった、いずれにしても、ながいあいだ鬱屈していた絶望の生活にきりがつく、そのことだけでかれは身も心も軽くなったのである。筧の水でからだを浄めたかれが、家の中へもどってみると、行燈に火がいれてあり夜具も片ついて、きちんと身じまいをした萩尾が坐っていた、四郎兵衛はちょっと驚いた、そこには白い洗いたての肌着と、一枚だけ残っている