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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控

野村 胡堂

227 怪盗系図

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 157,440 字 · 313 页

青空文庫

「済まなかったね、お銀さん。昨夜は引留めもせずに帰して」

「あれ、そんなこと。もう親分さん、私はとうに忘れていましたのに。それに――」

「――」

平次に酒をつぐと、お銀は少し居住いを直して言葉を続けるのです。

「それに、――私は苦労には馴れております。宿のないことや、三度のものにもありつけないことだって、幾度あったかわかりゃしません」

「そいつはまた――」

平次も返事に困りました。そんな話を聞かされると、急に座が白けて、酒までホロ苦くなりますが、お銀はそれさえ意識しないほど、自分の思い出に溺れている様子でした。

「私の育ったのは、相州の厚木でした。どうせ不義いたずらの末か何んかに出来た子でしょう。親知らずで里に預けられ、貧乏人の子らしく育ちましたが、七つの時親からの仕送りが絶えると、里親は薄情な人で、その日から私に守りっ子の仕事から、使い走り。翌る年にはもう、百姓の仕事までさせました」

「フム、フム、それから」

いっこう面白くもない話ですが、平次はすっかり乗気になって、しきりに盃を傾けながら、お銀の述懐を促すのでした。

「私は大抵の百姓仕事をしました。こんなに見えても、四斗俵の米だって持てるんですもの」