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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控
野村 胡堂
227 怪盗系図
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 157,440 字 · 313 页
「大層厄介なんだな。酒がこぼれるぜ、おい、八」
夜はもう亥刻(十時)近かったでしょうか、帰ろうとする平次と八五郎は、お栄の程のよさに引留められて、ツイお酒が深くなって行きます。その時でした。
「御免下さい――本所から参りましたが、定吉さんはおりますか」
「何んだえ、どうかしたのかえ」
当の定吉がアタフタと戸口へ顔を出すと、それへ叩きつけるように、
「定五郎さんに間違いがありました。直ぐ来て下さい――私は町内の者ですが」
平次と八五郎と、小僧の定吉とその叔母のお里は、使いの男と一緒に、本所石原の定五郎の家まで飛びました。もう亥刻(十時)過ぎ、江戸の街も静まり返って、乱れる自分達の足音だけが、物々しい響きを、町から町へ伝えて行きます。
小僧の定吉は自分の親のことが気になったのか、若さに任せて真っ先に列を離れ、やがて春のやみの中に姿を失いましたが、自分達と一緒に、雁行して駆けて来たはずの使いの男が、何時の間にやら姿を隠して居ることに平次は気がつきました。
「八、本所から来た男は、何処へ行ったかお前気がつかなかったか」
「知りませんよ、――いや待って下さいよ。そういえばあの男は、ツイ先刻履物を直すような振りをして、親分とあっしをやり過し、右手の路地の中へ消え込んだようですが」