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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控
野村 胡堂
227 怪盗系図
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 157,440 字 · 313 页
「気がついたか、お栄さん」
「あ、親分さん、怖いッ」
平次の顔を意識すると、お栄はいきなり平次の首っ玉へ、たった三つになる幼な児のようにひしひしと縋りつくのでした。
「どうかしたのか、お栄さん」
「私は、本当に、殺されるのかと思いました」
漸く正気づいたらしくお栄は、極り悪そうに平次の首っ玉から離れると、あわてて衣紋などを直すのです。
「ここから飛び出して行ったのはありゃだれだ」
「――」
「お前が知っている者だろう、――音も立てずに縛られたところを見ると」
お栄のような若くて健康なものが、近所の者にも知れないように縛り上げられたことは、早くも平次の注意を引いたのです。
「いわなきゃならないでしょうか、親分」
「それは、そうとも」
「隠しきれることではないかも知れません――あれは宇八どんですよ。皆んな本所へ行くって、御近所の衆もそこそこに帰ると、いきなり裏口から入って来て、無躾なことばかりいった揚句、私が聴かないので――」
お栄の言葉は悩ましく意味深長なものでした。
「先刻本所から来た男の顔を、お前見なかったのか」
平次は継穂のないことを、気ぜわしく訊ねました。
「いえ、逢ったのは私ですが、――見たことのない人でした」