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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控
野村 胡堂
227 怪盗系図
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 157,440 字 · 313 页
縄抜け
「すると一万二千両の金はどうなったでしょう」
「仲間が皆んな死んでしまえば、お栄だけがその隠し場所を知ってるだろう、――待てよ八。おれは少しまわって見るところがある。お前は一と足先に金沢町へ帰ってもう一度近江屋を見張っていてくれ」
八五郎の返事も待たず、平次はこういい捨てて何処かへ行ってしまいました。
縄抜け
八五郎は平次に別れて、緊張した心持で金沢町の近江屋に帰って来ました。この家へ、だれが最初に来るかわかりませんが、とも角、八五郎は懐ろの十手を取り出して腰に差したり、袂の中に落してある捕縄をまさぐったりして、すっかり英雄的な気持になっていたのです。
鍵はお隣りに預けてあるはずだと思いましたが、念のために入口の格子に手をかけると、格子戸は手に従って軽く開きました。
「どなた?」
中からは、響の音に応ずるような若い女の声、その艶っぽい張りきった調子は、お栄の声でなくてだれであるものでしょう。
八五郎はハッとしました。そのお栄を縛るために本所まで飛んで行き、そのお栄のもどって来るのを見張るために、金沢町へ取って返したのです。まさかこの家の中に、当のお栄が引返して来て、日本一の爽やかな声で受け応えしようとは、八五郎の飛躍する想像力の限度を超えた奇蹟でした。