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ながやてんいちぼう

長屋天一坊

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,453 字 · 57 页

青空文庫

かかる業者の存在は、家系の尊厳を冒涜すると怒る勿れ、演者の遠い知人に天智天皇このかた一代の欠もなく連綿百二十代にわたるところの完全なる系図を所有する者もあり、彼はその有難さに日常身の置くところを知らず、病んで危篤となるや、這般の系図を拝しつつ極めてうやうやしく死んでいったという。……是れを以て是れをみるに、いかなる職業も世を益し人を便ぜざるはない、と断言して憚らざるものだろう。

吾助がどこで系図書き人をみつけたかは、史実には遺っておらぬ。

六十あまりの、しなだれたような老人、赤錆びたような白髪の、そして同色の顎髯を伸ばした、常時みずばなを垂らしている老人を伴れて来て、自分の家に泊めて、そうして遂には自家の正統なるところの系図を書き上げさせたのであった。

「こいだへ、こい、こいだへきゃ」

報酬を手にしたときは、その系図書き人なる老人は、すっかり歯の脱落した口をぱくぱくさせたものである。

「こいでは、その、はいめのふェいやくに、もといやへんか、あま、あまいふとを、ばはにふうと、……その、わいだとて」

「やかましいね、この乞食爺いは」娘おわきが、このように応待した、「四日も五日も泊り込んで三度三度の飯をくらって、わけのわからぬ妙なお題目を書きゃあがって、おまけに銭をせしめてなんの文句がけつかるんだ、さっさと出ていか